書評:『日本人だけが知らない砂漠のグローバル大国UAE』

『日本人だけが知らない砂漠のグローバル大国UAE』
加茂佳彦(著) 2017年

 UAE(アラブ首長国連邦)は、大多数の日本人にとって長らく「石油だけのお付き合い」という国だった。2009年にドバイ・ショックが起こるまでは、ドバイ首長国が「フリーゾーン」を設置して外国からの投資をこれほどまで多く呼び込み、また自ら莫大な国内投資を行っていることはそれほど広く知られていなかったに違いない。このときはドバイと同じくUAEを構成する最大の首長国、アブダビ首長国政府が即座に救済に動くことで、信用不安が最小限で収束したことも印象的であった。しかし同時に、同じUAEの中で支援したり支援されたりとはどういうことか、と疑問に思った人も多いはずである。本書を読めば、このような状況もすんなり頭に入ってくるようになる。

 日本の特命全権大使としてUAEに2012から2015年まで滞在した著者は、あまりに先進的なグローバル社会がそこに実現しているのを目の当たりにして衝撃を受けたという。高度な治安と美しい景観、世界最先端の文物を備えた超近代都市が誕生していること、そして何よりも社会の各階層で外国人が社会の担い手として進出し、安定した富裕な社会を形成していること。要するに日本より段違いに進んでおり、閉塞感がないグローバル国家を中東で目撃したのである。著者も記しているように、UAEにも当然影の部分がある。しかし本書は知られざるUAEの輝ける側面をクローズアップして紹介する意図でまとめられており、主にビジネスパーソンやUAEを訪れたい旅行者に資する内容になっていると言えるだろう。

 UAEを理解するにはまず、それぞれに首長を戴き独立性が高い、7つの首長国から成る連邦国家であることを押さえることが必要である。そのうち最大のアブダビ首長国だけは大きな都市が二つ(アブダビ市、アルアイン市)あるが、その他6つの首長国の成り立ちは、<ひとつの首長国>≒<ひとつの都市>といってよい。まさにそれぞれの部族が支配する砂漠のオアシス都市が連合した政体である。

 UAEの政治・経済を外国人の立場から見る場合、アブダビ、ドバイという二つの首長国が圧倒的に重要である。UAEの全GDPのうちアブダビが7割弱、ドバイが3割弱を占め、両首長国合計で95%に達する。そのせいもあり政治的には、UAEの大統領はアブダビ首長が、副大統領はドバイ首長が務める慣例となっている。アブダビとドバイは主な産業でも住み分けている。UAE=石油のイメージは、実はアブダビ=石油というべきである。アブダビが石油と政治のセンターだとすれば、ドバイは中東最大の貿易・観光・商業のセンターとして共にUAEを牽引しているのである。

 各首長国は民主制をとっておらず、首長をはじめとする王族により支配されている。UAEは言うまでもなく石油資源に恵まれた国である。天然資源から得られたこの莫大な収入を1971年の建国以来、「開発独裁」型統治により、将来を見据えた賢い投資に振り向けてきたのが今日の繁栄に繋がった。

 UAE居住者の何と9割を占める外国人は、高度専門職から単純労働にいたるまで、好条件で広く労働機会が開かれており、経済運営は実質的に外国人の手にある。この意味でグローバルな労働市場が国内に実現され、就業許可証(エミレーツID)をもつ外国人であれば自己実現を目指して活躍できる社会である。エミレーツIDは身分証を兼ねており、これがあれば労働、居住だけでなく家族を呼び寄せることもできるが、仕事を失えば外国人は即、エミレーツIDを失い国外退去処分となる。

 アメリカやフランスなど移民を惹きつける多くの先進国において、移り住んできた外国人が目指すのは永住権や市民権である。この定住というゴールに向かう過程で、社会や文化に馴染むための同化圧力がかかることになる。一方UAEでは外国人が帰化することを原則として認めないという形で、自国民との間に明確な線を引いている。このためもあり外国人は、文化的差異に寛容な社会的雰囲気の元で、自身の国民的なアイデンティティを保持したままUAEでの暮らしを気楽に送ることができるという。

 外国人は外国人のまま、UAEで得られる機会を享受すると同時にUAEの経済に貢献して、いつかまたどこかへ去ってゆく。外国人労働者や移民に対して極度に厳しい日本社会に対して、このようなUAEの制度設計がグローバル化により国を富ませるひとつのヒントになるのではないかと著者は指摘する。UAEの制度が成り立つのは、外国人労働者がいくら入ってきても、自国民は連邦政府や国軍、警察、国営企業を独占しており富や労働機会を奪われることがないという、ほとんど奇跡のような条件が整っているからだ、という指摘も確かに可能だろう。しかしそれを差し引いても、これからの日本に決定的に不足する就業人口を呼び込み国を富ませる生きた実例があるのだから、取り入れられることが山ほどあるはずだ。今、UAEにはわくわくするような光景が広がっているに違いないのである。